2018年4月2日月曜日

シンギュラリティ否定派は文系脳の感情論かも知れない

「人間にできてAIにできないこと」がこの本を読んでやっと分かった(佐藤 優) | 現代ビジネス | 講談社(1/2):

 今回は作家の佐藤優氏の記事を元にしたものですが、この元記事自体が新井紀子氏の著作「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」のレビュー記事に近いものです。人工知能(AI)技術を中心とした加速度的な技術の発展により人類の文明に計り知れない変化をもたらすとされる「技術的特異点(シンギュラリティ)」について、新井氏および佐藤氏の論調は、そういう時代は来ない、あるいはシンギュラリティは幻想だといった調子です。

 シンギュラリティが来るという言説が誤りとする根拠について、両氏は以下のように述べています。

論理、確率、統計。これが4000年以上の数学の歴史で発見された数学の言葉のすべてです。そして、それが、科学が使える言葉のすべてです。次世代スパコンや量子コンピューターが開発されようとも、非ノイマン型と言おうとも、コンピューターが使えるのは、この3つの言葉だけです。
「真の意味でのAI」とは、人間と同じような知能を持ったAIのことでした。ただし、AIは計算機ですから、数式、つまり数学の言葉に置き換えることのできないことは計算できません。では、私たちの知能の営みは、すべて論理と確率、統計に置き換えることができるでしょうか。残念ですが、そうはならないでしょう。

 いわゆるAIは、「強いAI」と「弱いAI」に分類されます。「強いAI」というのはちょっとSF的なAIで、そこに精神が宿るとされる代物です。映画ターミネーターに登場するスカイネットのような、自らの意思がある(と少なくとも外からは見える)AIです。一方「弱いAI」は、現在のAIブームの主流であるパターン認識を中心とした、特定の問題解決特化型のコンピュータプログラムです。もちろん「弱いAI」が自意識を持つことはありません。

 そして、佐藤氏・新井氏の上記の主張が「強いAIが実現されることは当分ない」と言っているのならば、その通りだと思います。少なくとも現在主流の「弱いAI」は、例えばDeepMind社のAlphaGoは「囲碁」という問題解決のための専用プログラムですし、その最新バージョンAlphaGo Zeroはもはや勝てる人間はいないとさえ言われていますが、そうであってもあくまでも特定問題解決型プログラムで、自ら意思を持っているわけではありません。「弱いAI」の延長線上に「強いAI」があるというわけではなく、両者は全くの別物なのです。

 しかし「強いAI」の実現性が今のところ乏しいことでもって、シンギュラリティは来ないと結論づけるのも早急な気がします。佐藤氏は、スーパーコンピューターの助成金詐欺容疑で起訴された齊藤元章被告人の言葉として、以下のような言葉を引用しています。

クリエイティヴィティ、マネジメント、ホスピタリティについても、AIが人間の能力に匹敵するようになるのは案外早いのではないかという気がしています。そうした意味において、現実がSFを超える日は近いのではないかと私は思います。

 佐藤氏は、この斎藤被告人の言葉はもはや宗教的なものだと切り捨てています。しかし自分は、特定問題解決型の「弱いAI」が今以上にブラッシュアップされ、やがて「弱いAI」の適用先も多岐に渡るようになり、人間の仕事の価値である「クリエイティヴィティ」「マネジメント」「ホスピタリティ」を凌駕するかも知れないという意味であれば、否定できないと思います。

 「シンギュラリティ」に関する極端な議論は、「強いAI」と「弱いAI」を取り違えていることが原因であることが多いと思うのです。シンギュラリティ否定派は、「強いAI」を頭に思い描き、神に取って代わるAIが生まれることはないとか、意思を持ったAIが人類を滅ぼすなんてことは杞憂だと言います。一方でシンギュラリティ肯定派は、頭に「弱いAI」を思い描いていることが多く、弱いAIが解決できる問題がどんどん増えしかも各分野で人間よりも良い成績を叩き出す時代を想像している気がします。そしてこれは完全に自分の印象だけかも知れませんが、研究者とか数学者・科学者と呼ばれる人の多くは後者で、前者には社会学者や政治家・作家・法律家といった人々、概ね科学万能論に押し流されまいとする人々が多い気がします。

 失礼な言い方かも知れませんが、いわゆる文系脳の人たちにとって、「AI」という科学万能主義の象徴は自らの存在価値をゼロにしかねない存在だと捉えられているのではないかとさえ思います。自分たちが連綿と研究してきた社会・文化・政治といったものが一瞬でAIに解析され、自分たちが無用の長物に成り下がってしまうかも知れないという不安感と焦燥感。そして主流の「弱いAI」のカラクリを理解できないので、SFで見たようなAI(実は「強いAI」)を槍玉に盛んに攻撃するのではないかと。

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