2018年1月9日火曜日

知能と学業に関する残酷な「遺伝の真実」

残酷な「遺伝の真実」あなたの努力はなぜ報われないのか(安藤 寿康) | 現代ビジネス | 講談社(1/4):

 今回は慶應義塾大学教授で行動遺伝学・教育心理学の専門家である安藤寿康教授の記事を元に、なんとも衝撃的な真実について考えてみようと思います。その衝撃の真実とは、行動遺伝学で得られる「知能と学業成績は遺伝60%・環境40%」という知見です。

 実は行動遺伝学が扱う心理学的な特徴の中で、知能と学業成績は、最も遺伝の影響が大きい特徴のひとつです(↓)。全体的には、体重や身長といった身体的特徴が90%以上遺伝で決まるのに対し、神経質・外交性・同調性・勤勉性といった性格に関する遺伝の割合は40〜50%とやや低め。このことは直感的にも合います。そして、IQ・国語・算数・理科といった知能と学業に関する遺伝は60〜70%くらい。この割合は、我々が考えるよりずっと高いのではないでしょうか。


 しかし、遺伝が60%というのは絶妙な割合で、残り40%が環境で決まるのだから、まだまだ本人の努力の価値はあると考えるかもしれません。

 しかし、ここで一卵性・二卵性双生児の類似性を示す相関係数を見てみましょう(↓)。これは、きょうだいが完全に類似していれば1、全く似ていなければ0になる数値で、知能と学業に関しては一卵性双生児の場合は0.75、二卵性の場合は0.45くらいです。遺伝要因xも家族が共有する環境要因yも同じ値で散らばった人たちの類似性が0.75ですので
  x+y=0.75
遺伝要因では半分しか類似していない(0.5x)が、家族の共有環境要因では同じ値yで散らばった人たちの類似性が0.45なので
  0.5x+y=0.45
これらの簡単な連立方程式から、遺伝率x=0.60と算出されます。残り0.40が環境の影響ですが、家族で類似する共有環境の割合yはやはり上記の連立方程式からy=0.15ですから、遺伝でも家族の影響でもない純粋に個人の環境影響としては0.25(ちょうど一卵性が類似して「いない」程度、つまり完全な一致を示す1から一卵性の類似性0.75を引いた値)ということです。


 つまり、遺伝が60%と言っても、環境要因が40%あるのだから、頑張って勉強することには意味があると考えられそうですが、それはあくまでも親の論理です。子どもにとってみれば、自分ではどうしようもない遺伝が60%、やはり自分ではどうしようもない家庭環境がさらに15%もあるので、知能や学業に関して純粋に自分の努力で何とかなるのは25%しかないということになるのです。にも関わらず、先生や親から「できないのはおまえのせいだ。努力不足だ」と学業不振の責任を子ども本人に押しられたら、極めて不条理だと思いませんか。

 行動遺伝学が示す知能と学業に関する知見は、ざっくり言うと「遺伝60%、家庭環境15%、本人の努力が25%」という数字を示しているのです。しかし、この知見は我々の常識になっておらず、むしろその正反対の知識観や学習観がはびこっていないでしょうか。つまり、学力は努力と環境しだいでどこまでも向上できるという考え方のほうが一般的ではないかと。安藤氏によれば、これは二重の意味で残酷なことだと述べられています。努力で何とかなるのは25%しかないという事実を知ってしまうと、学業不振でも頑張れば何とかなるという希望が失われてしまいます。逆にこの事実を知らなければ、学力や学歴の差に依存する社会格差が本人の努力ではどうしようもない部分が大きいのに、ひたすら苦しい努力を強いられ続けてしまうという残酷さです。

 「遺伝60%、家庭環境15%、本人の努力が25%」という数字はとてもショッキングで、子ども本人からすれば努力で何とかなるのが25%だけですが、親の立場からすれば家庭環境もコントロールできますから、親子で力を合わせて努力すれば40%は何とかなるということです。自分も子どもを持つ親としては、家庭環境の15%を整えることで子どもの援護射撃をしてやりたいところです。

 しかしそれにしても、遺伝60%は絶妙な数値です。人並み以上に何かを成し遂げたいと思ったときは、遺伝的な才能がないところに力を注いでも厳しいと言うには十分な値です。これまでの日本人的な「努力信仰」に反することで、心情的には言いにくいことではありますが、頑張っても成績が伸びないならそれは才能がないことだと諦めて、早めに別の道を探す方がいいと言えるかもしれません。

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